2011.04.10up
 
あの時はね...
 


後年、2011年3月31日に行われた藤沢西高校吹奏楽部“夢笛管隊”定期演奏会について、それに関わった人たちが記憶を辿る時、おそらくいろいろな切り口から様々な思い出が語られることかと想像する。

しかし、何よりも「挙行された」という1点を割愛して語られるべきではない、と思う。

先の3月11日午後2時46分に発生した「東日本大震災」(というのが正式名称となったらしい)は、未曾有の被害をもたらした。
東京電力の管轄区域では『計画停電』なるものが実施されることとなり、3月中旬から4月初旬にかけて予定されていた近隣各中学・高校吹奏楽部の定期演奏会はほぼ全てが延期ないしは中止に追い込まれた。
(湘南台高校のマーチングの定演は3月29日、夜間の予定を昼間に変更して実施された!)

藤沢西高校も例外ではなかった。

本来であれば3月30日、藤沢市民会館で実施されることになっていたのだが、他校同様計画停電の余波でホールの使用が不可能となってしまった。

高校の吹奏楽部定演というのは、大別して2つの存在意義があるように思える。
一つは言うまでもなく「一年間練習してきた成果をその学校のやり方で示す」ということであり、部活動の集大成でもある。
当然、そういった意味では年間の最大のイベントである。

そして、もう一つは「別離」である。

運動部でも似たようなことは言えるのだが、高校時代の部活動が“美しい”と感じられる最大の要因は「時期が来れば終わる」ことに尽きる。
高校卒業後、高校時代と同じ、或いはそれ以上に運動や音楽と関われる者はかなり恵まれた環境や資質のある者であり、せめてそこまでは、ということで、力のあるなしに関係なく、大人も温かい目で見てくれるのである。

上記のことは特別明文化されているわけでもないのだが、日本国民の意識の底に流れているものなのだと理解している。
でなければ、プロに較べて技量では明らかに劣る高校野球があれほどの人気にはならないはずだし、高校3年生が自らの引退が近づくと急速に精神的な成長を遂げる、ということも説明出来ない。

定期演奏会は高校(さらには吹奏楽部)を巣立ってゆく3年生たちが“けじめ”をつける場でもあり、その機会は別の何かで代替できるものではなかろう。

藤沢西“夢笛管隊”の演奏会が画期的であったのは、定演の第二要素としての「別離」を、本来それが為されるべき時期に行ったことにある。

管理人は長らくの定演取材歴から、定演と言えば桜の季節、桜と言えば吹奏楽、という刷り込みをされている。
残念ながら、今年はそれが叶わないかと諦めていたが、さすが“夢笛管隊”。
自校体育館を会場として押さえるあたりは機転がきいている。
(他の部活などもあって、場所の確保だけでも簡単ではなかったはずだ)

かくして、“夢笛管隊”としての初の定演は体育館にて挙行された。

将来、この定演に関わった人たちが「あの時はね...」という枕詞をつけて語る時、未曾有の大地震と自らの当時の気持ち、演奏会を実施するまでの苦労などを思い出して、「それでも体育館で定期演奏会をやった」という事実の重みも感じてくれるといいなぁ、と思う。

少なくとも管理人は、今回の手作り感溢れる演奏会に感動した。

“夢笛管隊”の皆さん、ありがとう。


特設ステージ
 
 
“夢笛管隊”には隠し財産があった!

写真を見てもらえれば一目瞭然なのだが、ビニールシートを敷き詰めた体育館の床の上に都合三段のステージを“建設”し、体育館のステージと合わせて舞台が整えられていた。

オペラなどでやや窪んだ場所(ピット)にオーケストラがすっぽり収まっているのと似ている(...似てないかも)。

演奏が終わった後、部員たちがバラして倉庫へ運んでゆく様を見て、「なんか、いいなぁ」と感じた次第である。

ステージそのものも財産ではあるが、それを自分たちで組み上げ、その上で演奏した定演は部員たちの大切な財産となることであろう。

西日楽団?演奏も頑張る
 
管理人は“夢笛管隊”の名付け親である。えっへん!

ところが、である。
今回の定演を見ていて(聴いていて、ではなく)『藤沢西日オーケストラ』への改名もアリかと思うほどであった。

写真を見ると午後3時頃の体育館内の光の具合がわかる。
部員たちは眩しくなかったのかな...?
 
だから、どうだということもないわけだが...

肝心の音楽についても言及せねばなりませんね。

正直、体育館ということで音が上の方に抜けて、ぐわんぐわんするのではないかと危惧していたのだが、意外なことに(?)前方に向かうのがわかった。
当然、演奏者たちはそういう意識もしたのだろうが。

プログラム(こちらをどうぞ)はバラエティに富むもので、全10曲。
このうち特に印象に残ったものについて書きますね。

■ホルジンガー作曲「スクーティン・オン・ハードロック」

管理人は無条件にホルジンガーファンである。
ホルジンガーの曲を聴けば、「これってホルジンガーが作ったんじゃないの?」とだいたいわかる。
(あくまで、だいたい、ですが)

中でもこの曲は好きな曲の1つで、“夢笛管隊”はこの曲の演奏に余裕を感じさせる。
まとまり感もあり、ダイナミクスレンジの広さも素晴らしかった。

■リード作曲「第5組曲」

指揮の丸山先生(通称・透ちゃん)はどうやらリードはあまり好きじゃないらしい。
にしては、木管の柔らかく、包むような音をうまく引き出していた。

管理人は木管が優しい音を奏でてくれると、それだけでちょっと幸せになるようだ。

■メンケン作曲「魔法にかけられて」

最初の音出しから「おっ、こりゃいいね」と感じられる曲だった。
音の広がりとメリハリがあり、吹き出しに思いきりのよさと余裕が感じられた。

エンディンクもキレがよく、秀逸だった。

■ネスティコ作曲「キャラバン」

村松達之さん(通称・達人)のドラムソロの気迫たるや...

そして、その達人に負けじと打楽器群が参加しての演奏は背筋が痺れた。
トカレフさん(通称・トカちゃん)のトランペットも突き抜ける...。

少年が一人、達人のバチ捌きを食い入るように見ているのを管理人は見逃さなかった。
その瞬間に未来のミュージシャンが誕生したかもしれないのだ。

■久石 譲「ハウルの動く城」

ダイナミクスを保ちつつ、抑制感もある誠実な音出しをしているのが印象的であった。
このような演奏を地道に続けてゆくことで、将来このバンドのブレイクが約束されると感じさせるものだった。
 

  
左)MCも丸山先生が 中)トカレフさんのトランペットソロ 右)達人の炸裂ドラムとうろでトランペットを吹くトカちゃん&達人ジュニア
  
  
 

丸山透先生が赴任して一年。
“夢笛管隊”としての最初の定演は、記念すべき体育館ライブであった。

演奏者とお客さんの距離は異様に近い。
一般的な定期演奏会では考えづらいシチュエーションではあるが、これを“夢笛管隊”の『原点』として、これからの演奏活動を続けてもらえれば、と祈念します。

今度は新入生を含めたメンバーでお会いしましょう。

お疲れ様でした。
 

第29回藤沢西高校吹奏楽部定期演奏会 プログラム
 
=第一部=

南風のマーチ(渡口公康)
スクーティン・オン・ハードロック(D.ホルジンガー)
パガニーニの主題による幻想変奏曲(J.バーンズ)

=第二部=

コンサート・エチュード(A.ケディケ)
 トランペットソロ アレクセイ・トカレフ
詩的間奏曲(J.バーンズ)
第5組曲(A.リード)

=第三部=

魔法にかけられて(A.メンケン)
アマデウス、浮かれる!(真島俊夫)
キャラバン(S.ネスティコ)
 ドラムス 村松達之
ハウルの動く城(久石 譲)
  

左)終演後のトカちゃん&透ちゃん 中)達人ジュニア 右)定演後の体育館前の風景。雨でちょっと花びらが散っていたのが印象的